登記簿(登記事項証明書)は、その不動産の「戸籍」です。
誰が持っているのか、いつ建ったのか、いくら借金の担保になっているのか。
取引の前提になる事実は、ほぼすべてここに書かれています。
結論を言うと、見るべきは3か所だけです。
表題部の「新築年月日と床面積」、権利部甲区の「所有者と取得原因」、権利部乙区の「抵当権」。
この3つを読めれば、物件の税制上の扱い、売主が本当に売れる立場にあるか、売却代金でローンを返せるかまで分かります。
■ 30秒で分かる結論
・表題部:新築年月日で耐震と税制の扱いが、床面積(内法)で軽減措置の可否が決まる
・甲区:登記上の所有者と売主が一致しているか。相続や差押えの記録がないか
・乙区:抵当権の債権額と借入時期から、売主のローン残高の目安が分かる
・登記簿はオンラインで誰でも取得できる。気になる物件は内見前に確認できる
登記簿の全体像:表題部と権利部(甲区・乙区)
マンションの登記簿は、大きく3つのパートでできています。
| パート | 書かれていること | 見るポイント |
|---|---|---|
| 表題部(一棟の建物) | 建物全体の所在、構造、階数、敷地 | 構造(鉄筋コンクリート造など)と階数 |
| 表題部(専有部分) | 部屋番号、床面積、新築年月日、敷地権の割合 | 新築年月日と床面積 |
| 権利部(甲区) | 所有権に関する記録 | 現在の所有者と取得原因 |
| 権利部(乙区) | 所有権以外の権利(抵当権など) | 抵当権の債権額と設定時期 |
登記簿は、法務局の窓口のほか、オンラインの「登記情報提供サービス」でも取得できます。
所有者でなくても誰でも取得でき、手数料は数百円です。
物件を特定するには、住所ではなく「地番」と「家屋番号」が必要になる点に注意してください。
見るべき1か所目:表題部の「新築年月日」と「床面積」
新築年月日は、税制の扱いを左右します。
住宅ローン控除、登録免許税の軽減、住宅資金の贈与税の非課税などは、中古住宅の場合「1982年1月1日以降に建築された住宅」であることが要件の一つです。
それより前の物件は、耐震基準に適合することを証明できなければ、これらの優遇を受けられません。
旧耐震の考え方は、別コラム「旧耐震マンションは買っていいか」で詳しく扱っています。
床面積は、登記簿では壁の内側で測る「内法面積」で記載されます。
広告やパンフレットの面積は壁の中心で測る「壁芯面積」なので、登記簿のほうが数㎡小さくなるのが普通です。
軽減措置には「登記簿上の床面積50㎡以上」など面積の要件があるものが多く、広告で50㎡台前半の物件は特に注意が必要です。
実例:広告52㎡、登記簿49.8㎡
広告の面積だけを見て「50㎡以上だから軽減措置が使える」と判断すると、決済後に使えないことが分かるケースがあります。
面積要件が絡む制度を使う前提で資金計画を組むなら、申込み前に登記簿の面積を確認してください。
見るべき2か所目:甲区の「所有者」と「取得原因」
甲区には、その部屋の所有者が時系列で記録されています。
最後に記載されている人が、現在の所有者です。
まず確認すべきは、この登記上の所有者と、売主として交渉している人が一致しているかどうかです。
一致しない典型例が、相続登記が済んでいないケースです。
親が亡くなった後も登記が親の名義のままになっていると、そのままでは売却できません。
2024年4月から相続登記は義務化され、相続を知った日から3年以内の申請が必要になりました。
売主側で相続登記を済ませてから売却に進むのが正しい順番です。
相続した物件の売却は、別コラム「相続したマンションを売却する」で整理しています。
取得原因の欄には「売買」「相続」「贈与」などが書かれています。
あわせて、「差押」「仮差押」「仮登記」といった記載がないかも必ず確認してください。
これらがある物件は、決済までに抹消できるかどうかが取引の前提条件になります。
見るべき3か所目:乙区の「抵当権」
乙区には、住宅ローンなどの担保として設定された抵当権が記録されています。
記載されているのは、債権額(借りた金額)、利息、債務者、抵当権者(金融機関)、設定の日付です。
ここから読み取れるのは、売主のローン残高の目安です。
たとえば「2018年に債権額6,000万円」の抵当権であれば、35年ローンなら現在の残高はおおむね4,600万円前後と推定できます(金利0.5%前後、元利均等の場合)。
売り出し価格がこの残高を大きく上回っていれば、売却代金でローンを完済し、抵当権を抹消して引き渡せます。
逆に、残高が売却価格を上回る「オーバーローン」の状態だと、売主は差額を自己資金で埋めなければ売却できません。
売主が値下げに応じにくい理由が、ここに隠れていることもあります。
価格交渉の前に乙区を見ておくと、どこまで交渉の余地があるかの見当がつきます。
抵当権を見るときのチェックポイント
・債権額と設定日から、おおよその残高を推定する
・抵当権が複数ある場合は、住宅ローン以外の借入がないか確認する
・「根抵当権」は事業用の借入で使われることが多い。売主の資金事情を慎重に確認する
・抵当権は決済日に抹消されるのが前提。売買契約書にその旨が書かれているか確認する
売る側が登記簿を見る理由
登記簿は買主だけのものではありません。
売却を考え始めた段階で、自分の物件の登記簿を一度取り寄せることをおすすめします。
住所変更や結婚による氏名変更の登記をしていなければ、決済前に変更登記が必要です。
住宅ローンを完済済みなのに抵当権の抹消登記をしていないケースも少なくありません。
いずれも決済直前に気づくと、スケジュールがずれる原因になります。
売り出す前に整えておけば、買主にも安心材料として伝えられます。
結論:登記簿は「内見の前」に読む
3か所の読み方
・表題部:新築年月日(1982年1月1日以降か)と登記床面積(50㎡以上か)
・甲区:登記上の所有者と売主が一致しているか、差押えや仮登記がないか
・乙区:抵当権の債権額と設定日から、売主のローン残高を推定する
登記簿は、物件の事実が書かれた一次資料です。
営業担当者の説明や広告よりも先に、まず登記簿を見る。
この順番を守るだけで、資金計画の誤算や交渉の空振りを防げます。

