売却前に数百万円をかけてリフォームしても、その分が売り出し価格に上乗せできるとは限りません。
多くの場合、手を付けるのはハウスクリーニングと小さな補修までで足ります。
全面的な改装は、かけた費用より価格が上がらず、手元に残る額が減ることのほうが多いというのが、仲介の現場での実感です。
■ 30秒で分かる結論
・やるべきは、ハウスクリーニング、壊れた設備の修理、目立つ小さな傷の補修まで
・全面リフォームは、費用を売り出し価格に上乗せできず、手取りが減りやすい
・直さない部分は、不具合を書面で正直に伝えておけば責任の範囲を整理できる
・修繕費は、売却で出る税金を計算するときの譲渡費用に入らない
・迷ったら、直す前に査定を取り、買主が自分でリフォームする前提の価格も確認する
売却前にリフォームする人が損をする理由
リフォームをすれば高く売れる、という考え方には2つの穴があります。
1つ目は、買主の好みが読めないことです。
壁紙や床材、キッチンの色は人によって評価が分かれます。
売主が選んだ内装を気に入る人もいれば、「どうせ自分で替えるのだから、その分安くしてほしい」と考える人もいます。
2つ目は、費用の回収が価格の上昇に頼る点です。
査定額や売り出し価格は、同じ建物や近隣の成約事例が土台になります。
築年数や立地、広さが同じ部屋の成約価格から大きく離れた価格を付けても、内見での比較で割高に見えてしまいます。
中古マンションを探す人の中には、最初から購入と同時にリノベーションする前提の人が一定数います。
そうした人にとっては、売主が入れた設備や内装は壊して替える対象になりかねません。
売主の費用が、そのまま無駄になる可能性があります。
売り出し価格の考え方は売り出し価格の決め方で整理しています。
リフォームの効果は、物件の条件と買い手の層によって変わります。
築年数が浅く、水回りの傷みが少ない部屋ほど、改装の上乗せ余地は小さくなります。
一方で、傷みが激しくて内見の第一印象が悪い部屋は、清掃や補修で見え方が変わることがあります。
100万円単位の改装は手取りでどうなるか
数字で確認します。
70㎡の部屋を6,500万円(坪単価307.0万円)で売り出す場合と、400万円をかけて全面的に改装し、6,800万円(坪単価321.1万円)で売り出す場合を比べます。
改装で300万円高く売れたと仮定しても、改装費の400万円を引くと手元は減ります。
仲介手数料は、売買価格が400万円を超える場合に「価格×3%+6万円」に消費税を加えた額が上限です。
価格が上がれば、手数料も増えます。
| 70㎡の部屋の例 | そのまま売る | 400万円かけて改装 |
|---|---|---|
| 売り出し価格 | 6,500万円 | 6,800万円 |
| 坪単価(70㎡基準) | 307.0万円 | 321.1万円 |
| 仲介手数料(上限、税込) | 221.1万円 | 231.0万円 |
| 改装費 | 0円 | 400万円 |
| 手元に残る額(ローン残債や他の費用を除く) | 6,278.9万円 | 6,169.0万円 |
この例の数字は計算の手順を示す仮定で、実際の上乗せ額は物件ごとに違います。
改装費を回収するには、改装費に加えて増える手数料を含め、価格の上昇が改装費を上回る必要があります。
この例では、400万円の改装で約414万円の価格上昇がなければ、そのまま売る場合と同じ手取りになりません。
手取りの計算方法はマンション売却の手取りはいくら残るかで、項目ごとに分解しています。
やる価値があるのは何か
費用に対して効果が見合いやすいのは、次の3つです。
1つ目はハウスクリーニングです。
水回りの汚れや換気扇、窓、床のくすみは、内見の印象に直接影響します。
2つ目は、故障している設備の修理です。
給湯器、エアコン、換気扇、インターホンなど、動かないものは買主の不安につながります。
3つ目は、目立つ小さな傷の補修です。
ドアや壁の穴、クロスの破れ、水栓の水漏れなどは、数万円で直せる範囲です。
ハウスクリーニングを例にすると、費用を5万円(仮定)として、売り出し価格6,500万円に対する比率は約0.08%です。
この費用で内見の印象が良くなり、値引き要求を5万円分でも防げれば、元は取れます。
効果を金額で証明できなくても、費用が小さいので、やって損をする可能性は低い項目です。
居住中のまま売る場合は、業者に頼む前に自分でできることもあります。
玄関や廊下、収納の中の荷物を減らすだけで、部屋は広く見えます。
内見に来る人は、収納の容量や水回りの状態を細かく見ています。
カビや水垢、においは写真では分からず、現地で初めて目に入る分だけ印象を落としやすい項目です。
売り出し前に、担当者と一緒に部屋を歩いて、買主の目線で気になる箇所を洗い出してもらうと、直すものと直さないものの線引きがしやすくなります。
逆に、やらないほうがよいこともあります。
壁の色を大きく変える、床を張り替える、キッチンを入れ替えるといった工事は、買主の好みと合わなければ評価されません。
中途半端な古い設備の一部だけを新しくしても、全体の印象が変わらない例もあります。
こうした工事は、売主が先に決めず、買主が決まってから価格の交渉の中で扱うほうが無駄になりません。
直さない部分は、伝え方で責任が変わる
直さずに売る場合に大切なのは、不具合を黙って売らないことです。
売った部屋が契約の内容に合っていないとき、買主は修理などを求める追完請求(民法562条)や、代金の減額請求(同法563条)ができます。
種類や品質の不適合は、買主がそれを知った時から1年以内に売主へ通知しなければなりません(同法566条)。
これが契約不適合責任です。
個人が売主の場合、この責任を免除したり、期間を短くしたりする特約を付けることが多くなっています。
ただし、売主が知っていながら買主に告げなかった事実については、特約があっても責任を免れません(同法572条)。
売主が不動産会社の場合は、宅建業法40条により、引渡しから2年未満とする特約は付けられません。
このため、直す費用より、知っている不具合を書面にして渡すことのほうが、売主を守ります。
具体的には、物件状況報告書と付帯設備表に、雨漏りの履歴、設備の故障、水漏れ、近隣とのトラブルなど、知っていることを書きます。
「そのうち言えばよい」と考えていると、引渡し後に紛争になります。
告知の考え方は事故物件の告知ルールでも同じ視点で扱っています。
| 状況 | 買主ができること | 売主の備え |
|---|---|---|
| 不具合を伝えて売った | 合意した内容どおりの引渡しを求める | 書面に残し、説明した記録を保管する |
| 不具合を知らず、特約で免責した | 原則として請求は難しい | 特約の内容を契約書で確認する |
| 不具合を知っていて黙っていた | 特約があっても請求できる | 知っていることはすべて書面に書く |
リフォーム費用は税金の計算で戻るか
売却で利益が出ると、譲渡所得として税金がかかります。
その計算では、売るために直接かかった費用が譲渡費用として差し引けます。
国税庁のタックスアンサーでは、仲介手数料や売主が負担した印紙税などが譲渡費用に含まれ、修繕費や固定資産税は含まれないと説明されています。
つまり、売る直前の修繕に使った費用は、原則として税金の計算で差し引けるとは考えにくい、ということです。
個別の判断は、税務署や税理士に確認してください。
これとは別に、自宅を売る場合は3,000万円の特別控除などの特例があり、利益そのものが控除の範囲に収まれば税金はかかりません。
その場合は、改装費の税務上の扱いを気にする必要自体がなくなります。
特例の判定はマンション売却の税金にまとめています。
改装するか迷ったときの判断の順番
次の順で確認すると、判断がぶれにくくなります。
複数社に、そのままの状態での査定額と、買主が自分で改装する前提の価格を聞きます。
改装済みの部屋と未改装の部屋で、成約価格にどれだけ差が出ているかを確認します。
改装費、増える手数料、売却までの期間の管理費・ローン返済を足して、手取りが減らないかを見ます。
クリーニングと補修で内見を始め、反応を見てから追加の対応を考えます。
買取業者に売る選択肢も、改装を迷う場面では有効です。
買取は現状のまま引き渡せるため、改装も清掃も不要で、売主は準備の手間が省けます。
その代わり、価格は仲介で売る場合より低くなるのが一般的です。
違いはマンションは買取か仲介かで比較しています。
改装をしても、売れるまでの期間が延びれば、その間の管理費、修繕積立金、ローン返済が増えます。
工事の期間が1〜2か月あれば、その分も手取りから引いて考えてください。
費用と期間の両方を、売り出し前に数字にしておくことが大切です。
期間の費用も、数字にしてみます。
管理費・修繕積立金と固定資産税の月割を合わせて月6万円かかる部屋(仮定)で、工事と準備に2か月かければ、12万円が余分に出ていきます。
先の例では、改装費400万円に加えて、この12万円も手取りから引かれます。
売り出しが遅れるほど、改装で回収しなければならない額は大きくなります。
ローンが残っている場合は、利息の分も加わります。
市況が変わって売り出しの時期を逃すリスクも、費用とは別に頭に入れておいてください。
よくある質問
壁紙の張り替えだけでもやったほうがいいですか
汚れや破れが目立つ部屋は、張り替えの効果が出やすいです。
一方で、買主が全面改装を予定している場合は不要になるため、先に担当者へ相談してください。
ハウスクリーニングは引渡し前と内見前のどちらにやるべきですか
空室の場合は、内見が始まる前に行うのが基本です。
居住中の場合は、生活しながら水回りを掃除し、荷物を減らすことで印象が変わります。
給湯器が古くて不安です。交換したほうがいいですか
動いているなら、交換せずに設備表へ使用年数を書くのが一般的です。
故障している場合は、修理するか、買主に現状を伝えて価格で調整するかを査定時に相談します。
リフォーム済みと伝えれば高く売れますか
工事の内容や時期、保証が示せないと、評価されにくくなります。
工事の請求書や写真を保管しておくと、説明の根拠になります。
まとめ
売却前のリフォームを考えるときの要点
・全面的な改装は、費用を回収できず手取りが減ることがある
・ハウスクリーニング、設備の修理、小さな補修は、費用が小さく効果が見合いやすい
・直さない不具合は、書面で正直に伝えて責任の範囲を整理する
・修繕費は、税金の計算で譲渡費用には入らない
・迷ったら、直す前に査定を取り、手取りで計算する
売る前にどこまで手を入れるかは、物件ごとに答えが変わります。
査定額、同じ建物の成約事例、改装費の見積りを並べて手取りで比べれば、判断はそれほど難しくありません。
当社では、改装前の状態での査定と、改装した場合の手取りの試算を無料でお出ししています。
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