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購入編 売却編

住み替えは「売却先行」か「購入先行」か——順番で決まる、買い替えの成否

住み替えは「売却先行」か「購入先行」か——順番で決まる、買い替えの成否
この記事の監修者
南 和希
株式会社スピアード 代表取締役
宅地建物取引士 / 2級FP技能士

1999年、神奈川県横浜市生まれ。
新卒で大手不動産会社に入社後、営業部内トップセールスを達成。
3年の実績を経て独立し、株式会社スピアードを設立。
代表プロフィールを見る →

売買仲介・投資用不動産・中古不動産の仕入れ再販・リノベーションなど、不動産業界の幅広い領域で実務経験を持つ。
自身でも不動産の購入を3回、売却を2回、リノベーションを1回経験した実践派。
現在はメディア取材・自社サービスが計6媒体に掲載されている。

マンションや戸建てを買い替えるとき、最初に決めるべきは物件でも金額でもありません。
「今の家を先に売るか(売却先行)」「次の家を先に買うか(購入先行)」——この順番です。
この一択が、資金計画・引越し回数・最終的な手残りまで、すべてを左右します。

先に結論を言います。万能な正解はありません。
あなたの「今の家が、いくらで・どれくらい確実に売れるか」で答えは変わります。
この記事では、初めての方でも判断できるよう基礎から、経験者が見落としがちな出口設計まで、図解で一気に整理します。

■ 30秒で分かる結論
 ・今の家が十分な利益(売却益)を確保できそう → 購入先行。理想の家をじっくり選べる。
 ・いくらで・いつ売れるか不透明。二重ローンは避けたい。でも売値は攻めたい → 売却先行。
 ・どちらも捨てがたい → 「売り買い同時進行(同日決済)」を狙う。ただし難易度は最も高い。


そもそも「売却先行」「購入先行」とは

買い替えは「今の家を売る」と「次の家を買う」の2つを必ず動かします。
どちらを先に確定させるかで、呼び方が変わるだけです。

売却先行:今の家を先に売り、その後に次の家を買う。
購入先行:次の家を先に買い、その後に今の家を売る。

シンプルですが、この順番の違いが「資金の安心感」と「物件選びの自由度」というトレードオフを生みます。
まずは全体の流れを、6ステップで見比べてください。

売却先行(売り先行) 購入先行(買い先行) 1 今の家の売却活動を開始 査定 → 媒介契約 → 売り出し 2 買主と売買契約を締結 価格・引渡し時期を交渉 3 決済・引渡し(現居) 売却代金で住宅ローンを完済 → ここで資金と条件が“確定” 4 新居探し・購入申込 確定した予算で無理なく選ぶ 5 新居の売買契約を締結 6 決済・引渡し(新居)→ 入居 注意:仮住まいが必要になる場合あり 売却の引渡しまでに希望の新居が見つからな かった場合のみ。タイミングが合えば不要。 1 新居探し・購入申込 期限に追われず理想の物件を探せる 2 新居の売買契約を締結 住宅ローンの本審査・契約 3 決済・引渡し(新居)→ 入居 仮住まい不要・引越しは1回で済む 4 今の家の売却活動を開始 この間、ローンが2本走る(下図) 5 買主と売買契約を締結 6 決済・引渡し(旧居) 旧居ローン完済 → 二重ローン解消 注意:二重ローンのリスク 新居購入〜旧居売却まで、ローンが2本重なる。 売却期限が決められるため“チャレンジ期間”は有限。
売却先行は「売ってから買う」、購入先行は「買ってから売る」。手順はほぼ逆になります。

売却先行——メリット・デメリット

メリット

① 資金計画が確定する(最大の利点)
売却額が手元で確定してから次を買うため、「いくらまで出せるか」が明確になります。
予算がブレず、無理のない借入で組める。買い替えで一番怖い「資金ショート」を構造的に避けられます。

② 二重ローンにならない
今の家のローンは売却代金で完済。新居のローンと重複しないため、審査もシンプルで、金融機関からの評価も通りやすい。

③ 売り急がなくていい=売値を攻められる
新居の購入期限に追われないので、強気の価格設定で反応を見ながら売れます。
「頭と尻尾はくれてやれ」で中間の適正価格を取りに行く動きがしやすいのは、実は売却先行です。
焦って安値を掴まされるのは、むしろ次の購入先行で決済に追われたときに起こります。

デメリット

① 仮住まいが必要になる場合がある
仮住まいが発生するのは、売却の引渡しまでに希望の新居が見つからなかった場合のみです。
タイミングよく新居が決まれば、そのまま住み替えられ、仮住まいは不要。
仮に必要になっても、後述の「引渡し猶予」を使えば、仮住まいを挟まずに済むケースもあります。
仮住まいを挟む場合は、賃貸の敷金・礼金・仲介手数料、家賃、そして引越しが2回になります。

② 新居探しに時間の制約がかかることがある
仮住まい期間を短くしたいプレッシャーから、次の物件選びを妥協しがちになる点には注意します。

売却先行が向いている人

・今の家がいくらで・いつ売れるか読みにくい(築古、特殊な間取り、相場が動いている)
・二重ローンの負担は取りたくない
・それでも売値はしっかり狙いたい
・自己資金に余裕が少なく、売却代金を次の頭金に充てたい


購入先行——メリット・デメリット

メリット

① 次の家をじっくり選べる
期限に追われず、理想の物件を探せる。買い替えの満足度は最終的に「次の家」で決まるので、ここに時間をかけられるのは大きい。

② 仮住まいが不要
今の家に住みながら新居を探し、新居が決まってから引越す。引越しは1回で済み、仮住まいコストもゼロ。

③ 相場上昇局面では有利になりうる
上昇基調なら「安いうちに買って、高くなってから売る」が狙える。
ただし相場予測はプロでも外すので、過度に賭けないこと。

デメリット

① 二重ローンのリスク(最大の弱点)
新居を買ってから今の家が売れるまで、ローンが2本走ります。
金銭的に重いだけでなく、そもそも2本分の融資審査に通る必要がある。ここが購入先行の前提条件です。

ダブルローン(二重ローン)が発生する期間 新居 引渡し 旧居 引渡し(売却) 旧居のローン(売れるまで返済が続く) 新居のローン(購入時からスタート) ↑ この期間、住宅ローンが二重になる ■ “チャレンジ期間”は有限(ここが重要) ・新居のローン会社から、多くは「6ヶ月以内に旧居を売却」(銀行により最大1年など)の  条件が付く。期限までに売る必要があるため、強気の売値で粘れる期間は限られる。 ・旧居が長く売れないほど二重返済が延び、焦って値下げしやすい点にも注意。
購入先行は、旧居が売れるまで新旧2本のローンが重なります。売却期限が決められるため、売値を攻められる期間には限りがあります。

② 売却を焦って安値になりやすい
新居の決済・二重ローンに追われると、「早く売りたい」で価格を下げがち。
購入先行こそ、売値を妥協させられるという逆説に注意。ここを甘く見ると、購入先行のメリットが吹き飛びます。

③ 資金計画が不確定なまま動く
売却額が確定しないうちに次を買うため、想定より安く売れると資金計画が崩れます。

購入先行が向いている人

・今の家が十分な売却益を確保できる見込みが高い(好立地、人気エリア、相場が堅調)
・二重ローンに耐えられる資金力・借入余力がある
・妥協せず理想の物件を選びたい
・引越しは1回で済ませたい


ひと目で比較

項目売却先行購入先行
資金計画◎ 確定してから買える△ 不確定なまま動く
二重ローン◎ 発生しない△ 発生リスクあり
物件選びの自由度△ 時間の制約がある◎ じっくり選べる
仮住まい△ 新居が間に合わないと発生◎ 不要
引越し回数1〜2回1回で済む
売値の追求◎ 焦らず強気に出せる△ 決済に追われ妥協しがち
向いている相場下落・不透明な局面上昇局面

【核心】結局どっちか——出口から逆算して決める

ここからが本質です。順番は「好み」ではなく「今の家の売却の確実性」で機械的に決まります。
下のフローチャートに、あなたの状況を当てはめてください。

Q1. 今の家は、いくらで・いつ売れるか 読める?(好立地・堅調な相場か) =ローン残債を上回る利益が見込めるか YES:利益が出る NO:不透明 → 購入先行でOK 理想の家をじっくり選び、 引越しも1回で終える。 ※二重ローン耐性は要確認 Q2. 二重ローンに 耐えられる資金力がある? +売値もチャレンジしたい? 耐えられない/売値も攻めたい → 売却先行が正解 まず売って資金と条件を確定。 焦らず強気の価格で 出口(売値)を取りに行く。 迷ったら、まずこの3つを数字で把握 ① 今の家の査定額 ② 住宅ローンの残債 ③ 売却の確実性(成約事例・在庫) 数字が見えれば、順番は自動で決まる。
「なんとなく購入先行が良さそう」で動くのが最も危険。必ず今の家の数字から逆算してください。

青い鳥症候群に注意

「もっと高く売れるはず」「もっと良い家があるはず」と完璧を待ち続けると、買い替えは永遠に終わりません。
完璧な物件も、完璧な売値も存在しない前提で、頭と尻尾は捨てて中間の適正解を取りに行く——これが再現性のある勝ち方です。


スケジュールの目安(売却先行の場合)

売却先行は、需要期(1〜3月・9〜10月)に「売り出し済み」の状態を作れるよう逆算します。
買主が決まったら、その段階から新居探しを並行して進めるのがコツです。

売却先行のスケジュール(目安) 6ヶ月前 5ヶ月前 4ヶ月前 3ヶ月前 1〜2ヶ月前 決済・引渡し ① 相場把握・残債確認 ② 査定・会社選定・媒介契約 ③ 売り出し(需要期に合わせる) 新着期が山場 ④ 内覧対応・売買契約 ⑤ 新居探し(買主決定後・並行) 購入の動き ⑥ 決済・引渡し → 入居 ゴール 売却の動き 購入(新居)の動き
売却の各工程を進めつつ、買主が決まった後半で新居探し(青)を並行させるイメージです。

購入先行なら順番が逆になり、①新居を確定 → ②入居 → ③旧居を売り出し。
この場合、旧居が売れるまでの二重ローン期間(=売却期限まで)をいかに短くするかがスケジュールの主眼になります。


仮住まいを避ける・順番をつなぐ工夫

売却を確定させながら、仮住まいや二重ローンをできるだけ避けて住み替えるための実務の道具があります。
理想は、今の家の引渡しと新居の入居を近づける「同時進行」。代表的なのが次の2つです。

A
買い替え特約

すでに今の家の売買契約が成立していることが前提で、万一その売却契約が解約(白紙)になった場合に、新居の購入契約も白紙解除できる。売却を確定させたうえで新居を契約するときの安全網で、「まだ買主がいない段階で使えるもの」ではない点に注意。

B
引渡し猶予(決済後 約7日間)を使う

売却の決済後、一定期間(目安7日程度)は旧居に住める「引渡し猶予」を売買契約で設定。その間に新居へ引っ越せば、仮住まいを挟まず住み替えられる。

どの手が使えるかは、物件・買主/売主の事情・スケジュール次第です。
組み合わせ方で結果が大きく変わるため、ここは自己判断せず、実務を分かっているプロと設計するのが正解です。


見落としがちなコスト・税金

順番を決めるときは、諸費用まで含めた「手残り」で考えます。

項目目安
売却時の諸費用成約価格の4〜5%(仲介手数料、印紙税、抵当権抹消、ローン一括返済手数料 ほか)
購入時の諸費用購入価格の6〜8%(仲介手数料、印紙税、ローン関連費用、火災・地震保険、登記費用、不動産取得税 ほか)
仮住まいコスト
(発生した場合)
敷金・礼金・仲介手数料・家賃 + 引越し2回分

税制も必ず確認を。使えるかどうかで手残りが数百万円変わります。

最重要:3,000万円特別控除と住宅ローン控除は“併用不可”

買い替えでは、売却側の「3,000万円特別控除」と、購入側の「住宅ローン控除」は、どちらか一方しか使えません(同時期の併用は不可)。
売却益が大きいなら3,000万円控除、売却益が小さく新居の借入が大きいなら住宅ローン控除、というように手残りが大きくなる方を試算して選ぶのが鉄則です。
適用可否・要件(確定申告が必要)は、税理士・税務署で必ずご確認ください。

・3,000万円特別控除:マイホーム売却益のうち最大3,000万円まで非課税。
・譲渡損失の損益通算・繰越控除:売却で損が出た場合、給与所得等と相殺して税負担を軽減。


まとめ

買い替えは「順番」で結果が決まります。感覚ではなく数字で選んでください。

・今の家が十分な利益を確保できそうなら購入先行。理想の家を取りに行ける。
・売却額・時期が不透明で、二重ローンは避けたいが売値は狙いたいなら売却先行。まず確定させ、焦らず出口を取る。
・仮住まいは「新居が間に合わないときだけ」。買い替え特約や引渡し猶予でつなぐ工夫もある。
・最初にやるべきは、今の家の査定額・ローン残債・売却の確実性を数字で把握すること。

買い替えは「完璧な物件」を待つゲームではありません。
今の家の出口を数字で押さえ、頭と尻尾は捨てて中間の適正解を取りに行く——これが失敗しない買い替えの原則です。


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