賃貸中のマンションは、入居者がいるまま売ることができます。
賃貸借契約は買主に引き継がれ、この売り方を「オーナーチェンジ」と呼びます。
ただし買い手が投資家に限られ、価格は家賃と利回りで決まるため、空室で売る場合より低くなることが多いのが現実です。
■ 30秒で分かる結論
・売っても賃貸借契約と敷金の返還義務は買主に引き継がれる(民法605条の2)
・オーナーチェンジの価格は、年間家賃÷投資家の期待利回りで決まる
・空室なら自分で住む買い手にも売れるため、価格が高くなりやすい
・普通借家の入居者に退去してもらうには正当事由が必要で、立退料がかかることがある
・元の自宅なら、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の年末までに売れば3,000万円控除が使える
入居者がいるまま売ることはできるか
できます。
対抗要件を備えた賃貸借(入居者が住んでいる建物の賃貸借)の物件を売ると、貸主の地位は買主に移ります(民法605条の2)。
入居者は退去する必要がなく、家賃の受け取り先が新しい所有者に変わるだけです。
預かっている敷金の返還義務も買主に引き継がれるため、売買代金の決済時に敷金相当額を精算するのが一般的です。
オーナーチェンジの価格はどう決まるか
オーナーチェンジの物件は、投資家が「何%の利回りで回るか」で価格を決めます。
計算の基本は「年間家賃÷期待利回り」です。
フラット35などの住宅ローンは本人や家族が住む住宅に限られ、投資用には使えないため、自分で住みたい買い手はオーナーチェンジ物件を買いにくくなります。
| 同じ部屋(70㎡)を売る場合の例 | 価格 | 坪単価 |
|---|---|---|
| 空室で、自分で住む買い手に売る | 7,000万円 | 330.6万円 |
| 賃貸中(家賃月25万円、期待利回り4.5%) | 約6,667万円 | 314.8万円 |
| 賃貸中(家賃月25万円、期待利回り4.0%) | 7,500万円 | 354.2万円 |
利回りが低くても買う投資家がいれば、空室より高く売れることもあります。
差が出るのは、家賃の水準、立地、残りの契約期間、入居者の属性です。
数字は計算の手順を示すための例で、実際には同じ建物の空室での成約事例と、近隣の賃料相場の両方から価格を出します。
退去を待って売るべきか
普通借家の場合、貸主の都合で入居者に退去してもらうのは簡単ではありません。
貸主から更新を拒絶したり解約を申し入れたりするには、正当事由が必要です(借地借家法28条)。
正当事由は、貸主と借主それぞれが建物を必要とする事情や、立退料の申出などを総合して判断されます。
更新しない旨の通知は期間満了の1年前から6か月前までに行う必要があり、解約の申入れをした場合も契約が終わるのは申入れから6か月後です。
定期借家契約なら、期間が満了すれば契約は更新されずに終わります(同法38条)。
ただし、契約前に更新がないことを書面で説明していないと、更新がない定め自体が無効になります。
期間が1年以上の場合は、満了の1年前から6か月前までに終了の通知が必要です。
「定期借家のつもりだった」契約が要件を満たしていない例もあるため、契約書と説明書面を必ず確認してください。
判断の基準は何か
判断は「空室で売れる価格との差」と「退去を待つコスト」の比較です。
次の表の項目を数字に置き換えて比べます。
| 項目 | オーナーチェンジで売る | 退去を待って空室で売る |
|---|---|---|
| 売却価格 | 家賃と利回りで決まる | 同じ建物の成約事例で決まる |
| 買い手の層 | 投資家、買取業者 | 自分で住む人、投資家、買取業者 |
| 売れるまでの期間 | すぐに売りに出せる | 退去の時期しだい |
| 追加の費用 | なし | 立退料、空室期間の管理費・修繕積立金・ローン返済、原状回復 |
| 家賃収入 | 決済日まで受け取れる | 退去後はなくなる |
普通借家か定期借家か、更新時期はいつかで、退去の見通しが決まります。
同じ建物の空室での成約坪単価と、家賃から逆算した価格を並べ、差額を出します。
差額が、立退料と空室期間の費用、退去までの期間を上回るなら退去を待ち、下回るならオーナーチェンジで売ります。
元の自宅を貸している場合の税金は
自分が住んでいた家を貸している場合、売る時期によって3,000万円特別控除が使えるかが決まります。
この特例は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることが条件です。
住まなくなった後に賃貸に出していても、期限内に売れば適用を受けられます。
退去を待っている間にこの期限を過ぎると、税金が数百万円単位で変わることがあるため、売却の時期は期限から逆算して決めてください。
3,000万円特別控除には、親子や夫婦など特別な関係にある人への売却ではないことなど、他にも要件があります。
適用の可否は、売却前に税務署か税理士に確認してください。
よくある質問
賃貸中のマンションを売るとき、入居者の同意は必要ですか
同意は不要です。貸主の地位は買主に移り、入居者はそのまま住み続けられます。家賃の振込先が変わることを通知します。
オーナーチェンジ物件は安くなりますか
空室で売る場合より低くなることが多いですが、家賃の水準と投資家の期待利回りによっては高く売れることもあります。両方の価格を出して比べます。
入居者に退去してもらうには立退料が必要ですか
普通借家では、貸主からの解約に正当事由が必要で、立退料の申出は正当事由を補う要素として考慮されます。金額は事情によって変わります。
敷金は誰が返しますか
敷金の返還義務は買主に引き継がれます。売主が預かっている敷金は、決済時に売買代金で精算するのが一般的です。
結論:2つの価格を出してから売り方を決める
賃貸中のマンションを売る前に確認すること
・賃貸借契約は普通借家か定期借家か、残りの期間は
・空室での成約価格と、家賃から逆算した価格の差
・立退料と空室期間の費用の見込み
・元の自宅なら、3,000万円特別控除の期限はいつか
・敷金の額と精算の方法
賃貸中のマンションの売り方に、どちらが正解という決まりはありません。
空室価格とオーナーチェンジ価格を並べ、待つコストと税金の期限まで数字にすれば、答えは物件ごとに出ます。
両方の価格の査定と、買取を含めた売り方の比較は個別にお出しします。

