法人が不動産を売ると、土地部分は非課税、建物部分には消費税10%がかかります。
納める消費税の額は建物部分の価格で決まるため、売買代金を土地と建物にどう分けるか(按分)が最大の論点です。
あわせて、課税事業者かどうか、土地の売却で課税売上割合が下がらないかも確認が必要です。
■ 30秒で分かる結論
・法人の資産の譲渡はすべて「事業として」の取引で、建物は課税、土地は非課税
・契約で土地と建物の代金を合理的に分けていれば、その金額が基準になる
・分けていなければ、土地と建物の価額の比で按分する(消費税法施行令45条3項)
・固定資産税評価額の比は実務でよく使われるが、裁判で退けられた例もある
・土地の売却は非課税売上になり、課税売上割合が下がって仕入税額控除が減ることがある
法人が不動産を売ると消費税はかかるか
建物部分にかかり、土地部分にはかかりません。
消費税の課税対象は、事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等で、法人が行う資産の譲渡等はすべて「事業として」に該当します。
土地の譲渡は非課税と定められているため、マンションを売る場合は建物部分だけが課税対象です。
税率は10%で、内訳は国税7.8%、地方消費税2.2%です。
個人が自宅を売る場合は事業として行う取引ではないため、消費税はかかりません。
同じマンションでも、売主が法人か個人かで消費税の有無が変わります。
| 売主 | 建物部分 | 土地部分 |
|---|---|---|
| 法人(課税事業者) | 課税(10%) | 非課税 |
| 法人(免税事業者) | 納税義務なし | 非課税 |
| 個人(自宅の売却) | 不課税 | 非課税 |
| 個人事業者(事業用の建物の売却) | 課税(課税事業者の場合) | 非課税 |
自社は消費税を納める事業者か
消費税を納めるのは課税事業者で、判定は前々事業年度(基準期間)の課税売上高で行います。
基準期間の課税売上高が1,000万円以下なら原則として免税事業者ですが、インボイス(適格請求書発行事業者)の登録をしていれば免税にはなりません。
前事業年度の開始から6か月間(特定期間)の課税売上高が1,000万円を超えた場合も課税事業者になり、この判定は給与等の支払額で行ってもかまいません。
設立1期目と2期目は、期首の資本金が1,000万円以上なら課税事業者です。
土地と建物はどう按分するか
契約で合理的に区分していればその金額、区分していなければ価額の比で按分します。
消費税法施行令45条3項は、土地と建物を一括で譲渡し対価が合理的に区分されていない場合、譲渡時の各資産の価額の割合で按分すると定めています。
消費税法基本通達10-1-5は、対価は合理的に区分しなければならないとし、法人税の土地譲渡の特例計算で区分している場合はその区分によるとしています。
| 按分の方法 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 契約書で区分する | 売買契約書に土地代金と建物代金(消費税額)を明記する | 区分が合理的であることが前提。極端に建物を安くした区分は否認されうる |
| 不動産鑑定評価額の比 | 土地と建物それぞれの鑑定評価額の割合で按分する | 国税庁の質疑応答事例で認められている。鑑定費用がかかる |
| 固定資産税評価額の比 | 固定資産税の土地と建物の評価額の割合で按分する | 実務で広く使われるが、裁判で鑑定評価額の比が採用され、退けられた例がある |
| 建物の標準的な建築価額による方法 | 建築時の標準単価×床面積から経過年数分を差し引いて建物価額を出す | 所得税で取得費を区分する際の方法として国税庁が示している |
固定資産税評価額の比は、手間がかからず根拠を示しやすいため、実務でよく使われる方法の一つです。
ただし専門誌の報道によると、東京地裁令和4年6月7日判決では、固定資産税評価額の比(建物44.49%)ではなく鑑定評価額の比(建物22.70%)が採用されました。
どの方法が合理的かは物件ごとに判断されるため、金額が大きい取引では鑑定評価や税理士の確認を前提にしてください。
按分の違いで消費税はいくら変わるか
建物の比率が10ポイント変わるだけで、消費税は数十万円単位で変わります。
例えば土地と建物の税抜価額の合計が6,700万円のマンションでは、次のようになります。
| 建物の比率 | 建物の価額(税抜) | 消費税(10%) |
|---|---|---|
| 40% | 2,680万円 | 268万円 |
| 30% | 2,010万円 | 201万円 |
| 差 | 670万円 | 67万円 |
売主にとっては建物の比率が低いほど納める消費税が少なくなり、買主が課税事業者の場合は建物の比率が高いほど仕入税額控除と減価償却が大きくなります。
売主と買主で利害が逆になるため、按分は契約前に根拠をそろえて合意し、契約書に明記するのが基本です。
数字は按分の影響を示すための例です。
土地を売ると課税売上割合はどうなるか
土地の売却代金は非課税売上として課税売上割合の分母に入るため、割合が下がり、仕入税額控除が減ることがあります。
課税売上割合は、課税売上高を総売上高(非課税売上高を含む)で割って計算します。
課税売上高が5億円以下で課税売上割合が95%以上なら仕入税額を全額控除できますが、大きな土地代金が入ると95%を下回ることがあります。
この影響を抑える方法として、「課税売上割合に準ずる割合」の承認があります。
国税庁の質疑応答事例では、土地の譲渡が単発で、事業の実態に変動がない場合(過去3年間の課税売上割合の差が5%以内など)に承認の対象になるとしています。
使える割合は、前3年の通算課税売上割合と前期の課税売上割合のうち低い方です。
個別対応方式を採用している場合に限られ、課税期間の末日までに申請し、翌課税期間には不適用届出書を出す必要があります。
簡易課税を選んでいる場合は
簡易課税では、仕入税額を実額ではなく、売上の消費税額にみなし仕入率を掛けて計算します。
基準期間の課税売上高が5,000万円以下の課税期間で選択できます。
事業区分は取引ごとに判定し、自社で使っていた建物(社宅など)の売却は第4種でみなし仕入率60%、仲介や賃貸などの不動産業は第6種で40%です。
購入した住宅をそのまま販売する場合は第1種または第2種とされ、改装して売る場合の区分は個別に確認が必要です。
適用を受けるには、適用したい課税期間の初日の前日までに届出書を出す必要があり、選択すると2年間は継続して適用されます。
建物の売却額が大きい年は、本則課税と簡易課税のどちらが有利かを事前に試算してください。
賃貸中の住宅を売買する場合の注意点は
2020年10月以降、住宅として貸す建物で税抜1,000万円以上のもの(居住用賃貸建物)を仕入れた場合、その仕入税額は控除できません。
販売用の棚卸資産でも、所有している間に住宅として貸さないことが明らかなもの以外は制限の対象になりえます。
入居者がいるまま仕入れた住宅を、仕入れから第3年度の課税期間の末日までに売却した場合は、売却額などに応じて控除できなかった税額の一部を加算する調整があります(消費税法35条の2)。
賃貸中の物件を扱う場合は、個別に税理士へ確認してください。
よくある質問
法人が社宅として使っていたマンションを売ると消費税はかかりますか
課税事業者であれば建物部分にかかります。法人の資産の譲渡はすべて事業としての取引にあたるためです。土地部分は非課税です。
建物と土地の按分は自由に決めてよいですか
自由ではありません。合理的に区分する必要があり、根拠のない区分は否認されることがあります。鑑定評価額や固定資産税評価額などの根拠をそろえます。
固定資産税評価額の比で按分すれば問題ありませんか
実務では広く使われていますが、裁判で鑑定評価額の比が採用された例もあります。金額が大きい取引では鑑定評価と税理士の確認を前提にしてください。
免税事業者の法人が売る場合も消費税を納めますか
免税事業者には消費税の納税義務がありません。インボイスの登録をしている場合は課税事業者になるため、登録の有無を確認してください。
不動産の広告価格は税込で表示する必要がありますか
消費者に価格をあらかじめ表示する場合は、消費税込みの総額表示が義務です(消費税法63条)。
結論:按分の根拠を契約前にそろえる
法人が不動産を売る前に確認すること
・自社は課税事業者か(基準期間、特定期間、インボイス登録)
・土地と建物の按分の根拠(契約書、鑑定評価、固定資産税評価額)
・按分による消費税額の違いと、買主との合意内容
・土地の売却で課税売上割合が95%を下回らないか、準ずる割合の申請は必要か
・簡易課税を選んでいる場合、本則課税との有利不利
・賃貸中の住宅なら、居住用賃貸建物の制限と調整の対象か
法人の不動産売却では、売却価格が同じでも按分と税務の段取りで手取りが変わります。
契約書に建物代金と消費税額を明記する前に、按分の根拠と税額を必ず試算してください。
最終的な税務判断は税理士の確認が必要ですが、売却価格と按分の根拠づくりは個別にお手伝いします。

